一夜の過ちのはずが政略結婚相手の社長に溺愛されています
顔を上げる。

その瞬間――息が止まった。

「……社長……?」

思わず、名前ではなくそう呼んでしまう。

目の前にいるのは、間違いなく九条蒼真だった。

いつも会社で見ている姿と、何一つ変わらないのに――状況だけが違う。

どうして、ここに。どうして――

「……綾音?」

蒼真の方も、驚いたように私を見つめている。

「君が、結婚相手?」

低く落ち着いた声なのに、わずかに戸惑いが混じっていた。

頭が追いつかない。

何も考えられないまま、ただ彼を見つめてしまう。

すると、父がそのやり取りを見逃さなかった。

「なんだ、知り合いか?」

探るような視線が向けられる。

「……はい」

喉が乾いて、うまく声が出ない。

「勤め先の社長さんです」

それだけ答えるのが精一杯だった。

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