一夜の過ちのはずが政略結婚相手の社長に溺愛されています
その日、帰り際に資料を届けたあと、私は一人でエレベーターに乗り込んだ。

ドアが閉まる直前、足音が近づいてきて、扉がもう一度開く。

「……失礼」

入ってきたのは――九条社長だった。

「お疲れ様です」

慌てて頭を下げる。

「お疲れ」

穏やかな声が返ってくる。

それだけのやり取りなのに、心臓がうるさい。

狭い箱の中、二人きり。沈黙がやけに長く感じる。

数字が一つ、また一つと変わっていくのを見つめながら、私は息を整えようとした。

――その時、がくん、と大きく揺れて、エレベーターが止まった。

「……え?」

思わず声が漏れる。

次の瞬間、静まり返る空間。ボタンを押しても反応がない。

「止まった……?」

じわじわと不安が広がっていく。

密閉された空間。動かない箱。

息が詰まるような感覚に、体が震えた。
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