一夜の過ちのはずが政略結婚相手の社長に溺愛されています
「大丈夫か」

すぐ近くから声がして、はっと顔を上げる。

社長は落ち着いた様子で非常ボタンに手を伸ばしていた。

「今、連絡取った。三十分くらいで来るらしい」

「三十分……」

思ったより長い時間に、胸がざわつく。

狭い空間で、三十分も――呼吸が浅くなる。

視界が少しだけ揺れて、私は壁に手をついた。

「……怖いか」

静かな声。

否定しようとしたけれど、うまく言葉が出てこない。

その時、ふわりと肩に何かがかけられた。

見下ろすと、社長のジャケット。

「え……」

「寒いだろ」

それだけ言って、彼は私の前に立つ。

そして、そっと腕を回してきた。

「……っ」

「大丈夫だから」

低くて、落ち着いた声が耳元に落ちる。

「俺がいるから」

その一言で、張り詰めていたものが一気にほどけた。

ゆっくりと、座るように促される。
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