元王太子の俺、島国で王やってます!(※ブロマンス要素あり)

プロローグ



「ラーシヴァルト殿下。宰相閣下がお呼びです」

 執務室で書類仕事をしていると、護衛騎士のレノスがやってきてそう告げた。俺の兄貴分である王立騎士だ。いつも穏やかな笑みを口元に浮かべている。
 俺――ラーシヴァルト・アルヴェルスは書類から顔を上げ、頷いた。

「ああ。分かった。今、行く」

 席を立つ。脇にある開けっぱなしの窓を締めてから、部屋をあとにした。風で書類が飛び散っては大変だ。
 アルヴェルス王国、王太子。それが俺の身分であり、揺るぎない立場だ。次期国王として日々精進し、誰よりも努力している。
 すべては、アルヴェルス王国の民のために。
 一つ結びにした銀色の髪を揺らして回廊を歩きながら、俺は首を捻った。

「マミバの奴、なんの用だろうな。急に」

 心当たりがない。個人的に宰相――マミバから呼び出されるなんて。
 俺の隣を歩くレノスもまた、首を傾げた。

「さぁ……? 分かりません」
「まだ成立していない予算案の話か? あいつ、使うべきところに使わず、余計なところに予算を組んでいるとしか思えないんだよな」
「申し訳ございません。俺にはさっぱり……」

 俺の半ば独り言に相槌を打つレノスの表情は、いつものように苦笑いだ。
 だけど、……ん? 俺はふと気付いた。

「レノス? どうした?」

 レノスの目の瞬きが異様に多い。なぜ、レノスが緊張しているんだ。宰相に会いに行くのは、あくまで俺なのに。
 レノスは「いえ、なんでもありません」と笑顔を浮かべるだけだ。
 何か隠し事をされているような気がしたけど、それ以上は追及できなかった。俺を呼び出した宰相――マミバがいる宰相室に到着したからだ。

「じゃあ、行ってくる。またあとでな」
「……ラーシヴァルト殿下」
「ん? なんだ」

 再び振り向くと……レノスはなぜか、俺が行くのを止めようとしているような手の動きをしていた。そして、その手は微かに震えている、ような気がする。
 俺がそのことに気付くと同時に、レノスはさっと手を引っ込めた。

「い、いえ。お気を付けて」
「? ああ」

 よく分からないものの、今はマミバとの話が先だ。詳しい話は後でしよう。
 俺は身を翻し、宰相室の扉を叩く。
 その背後で――レノスはなぜか、申し訳なさそうに目を伏せ、俺を見送っていた。

「……申し訳ございません。ラーシヴァルト殿下」

 最後にそう呟いて。

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