元王太子の俺、島国で王やってます!(※ブロマンス要素あり)
「マミバ。きたぞ」
宰相室の扉を開け、俺は中に顔を出す。
宰相室は、文字通り文官の頂点である宰相が使用する部屋だ。少し手狭だけど、一人でのびのびと使える個室でもある。
「俺になんの用……、っ!?」
傍若無人に室内に足を踏み入れた俺は、びくりとした。年老いたマミバが文机を挟んで、冷ややかな目で俺を睨みつけていたからだ。
なんだよ。俺が何をしたっていうんだ。
「……マミバ? どうした、怖い顔をして」
親の敵を見ているのかと思うほど、眼光が鋭い。いや、俺は別にマミバのご両親の敵ではないし、そもそもマミバのご両親はまだ田舎で健在だ。
戸惑う俺に向かって、マミバはこつこつと靴音を鳴らしながら近付いてきた。
「率直に申し上げます、ラーシヴァルト殿下。――先日、ウシュベルーナ殿下の暗殺を企てましたね?」
「は?」
俺はぽかんとするほかない。何を言われたのか、一瞬分からなかった。
ウシュベルーナ。俺にとっては、双子の弟王子のことだ。
「俺がウーシュの暗殺を企てた……? なんだよ、そのくだらない言いがかりは」
「白々しい。ウシュベルーナ殿下のことを忌々しく思っての犯行でしょう」
「はぁ!?」
意味が分からない。俺がなぜ、可愛い弟のことを忌々しく思い、さらには暗殺を企てなきゃならないんだ。ふざけたことを!
俺はカッとなり、思わずマミバの胸倉を掴み上げてしまった。こんなにも兄弟愛を抱いているのに、それを侮辱されたように感じたからだ。
「そんなことするわけないだろ! ウーシュは俺の大切な弟だ!」
「どうでしょうか。ウシュベルーナ殿下は、優秀であらせられる。正直、あなた様よりも」
「…っ……、それでどうして、俺がウーシュの暗殺を企てる理由になるんだよ!」
「見苦しいですよ」
マミバが俺の手首を掴んで、自身の衣服から引っぺ剥がす。ぞんざいに振り払われた俺の手は、俺の太ももの横できつく握り拳になった。
くそっ、どうしてこんな嫌疑をかけられている。ウシュベルーナがいくら優秀とはいえ、俺が弟を暗殺しようとするはずなんかないのに。
意味が分からない。俺が誰に何をしたっていうんだ。
俺はすぅっと深く呼吸した。腹立たしいが、感情的になっても俺の劣勢は変わらない。落ち着け、俺。
「証拠は? 当然あるんだろ?」
あるわけがないが、挑発的に言葉をかける。嘘をつくのなら、そこを徹底的に糾弾してやろうと思った。
マミバは、淡々と話を続けた。
「もちろん。レノスから証言は取れております」
「レノス……?」
俺は言葉を失う。頭をガンッと強く殴られたような痛みが走った。
レノスは俺がもっと子どもの頃から付き従ってくれている、先程の護衛騎士のことだ。兄貴のように慕っている、誰よりも信頼している男――。
それが、どうして。
何も言えない俺を、マミバは追い詰めた。
「このような醜聞、もみ消すほかありませんが……。王太子殿下には流罪となっていただくほかありません」
「……」
「ご安心下さい。弟君たちには秘密にしておきますから。ああ、もちろん次の王位は」
マミバは、ニタリと笑った。
「ウシュベルーナ殿下になっていただくとしましょう」
「!」
その時、俺は直感で悟った。――こいつにはめられているのだと。
ウシュベルーナ暗殺を指示したなんて、濡れ衣だ。真っ赤な嘘。だけど、おそらくマミバはそれを分かっていながら、俺のことを疎ましく思ってこんな暴挙に出た。
どうにかしないと、このまま汚名を着せられたまま、流罪となってしまう。それくらいは分かっている。
だけど……俺か、こいつか。もう、どちらかしか生き残る道がない。
俺が濡れ衣だと冤罪を晴らせば、マミバはアルヴェルス王城から追放だろう。そうなったら、有能な宰相がいなくなってしまう。国にとって痛手といったら痛手だ。
俺は下唇をぎりっと噛みしめる。だけどすぐに顔を上げ、マミバを睨みつけた。
「お前……よほど、俺のことが嫌いだったんだな」
「……」
「分かった。確かにウーシュは優秀だ。よき国王になるはずだ」
素直に頷くと、マミバはほんの少し意外そうな目で俺を見た。だけど、深くやりとりをしない方が楽だと思ったのか、俺の真意を追及はせず。
「それでは、今日明日中にこの国をお立ち去り下さい」
「ああ」
「さようなら。――『見本のような王太子』様」
マミバは嫌みったらしくこぼし、自分から宰相室を出て行った。
俺はその肉厚の背中を静かに睨みつける。
このまま終わりたいわけじゃない。ただ、下手に国を二分する方向に行ったら、王位争いの余波で民が苦しむ。それだけは避けたい。
そのためなら、汚名も流罪も受け入れてやるよ。この小太り宰相。