元王太子の俺、島国で王やってます!(※ブロマンス要素あり)

 小気味いい笑いを提供してくれたレノスは「あとで植えておきますね」と、ナスの種を懐にしまい込んだ。いやだから、何個持っているんだよ、作物の種。
「だけど、船の修理か……できるか、レノス」
「船の修理は守備範囲外ですね」
「俺もだ」
 子どものリスガだってそうだろう。
 となると、イブキはどうだろうか。いや、でもイブキだって隠れ里の出身なのだから、難しいか? 聞いてみよう。
 俺は席を立ち、リスガの自宅を出る。
 イブキの姿を探していたら、あっ。いたいた。
「イブキ。ちょっといいか?」
 サーシェ人女性と会話しているイブキを見つけ、声をかける。
 この二人、なんだか妙に仲がいいんだよな。というか、イブキの方がサーシェ人女性から猛アプローチをかけられているように見える。
 鬼族への偏見が消えたのは喜ばしいことだ。よかったな、イブキ。
「ラ、ラーシヴァルト。よかった」
 イブキはなぜだかほっとしたような顔をして、俺の前まで走ってきた。おいおい、何も走って彼女を置いてこなくていいだろうに。
「何がよかったんだ? 彼女と楽しそうだったじゃないか」
「そんなわけない」
 きっぱりと断言する声音が冷たく感じて、俺は眉をひそめた。
「せっかく仲良くなったのに、失礼だろ」
 イブキもまた、むっとした顔をする。
「誰だって苦手な者の一人や二人、いるだろう」
「いい子そうじゃないか」
「それは分かっている。だが、苦手なものは苦手なんだ」
「そんなに?」
「ああ。その……些か積極的すぎる」
 珍しくおどおどとした様子のイブキだ。そうか、そんなにも猛アタックされて困り果てていたのか。
「ごめん。勝手に脳内祝福していて悪かったよ」
「は?」
「いや、なんでもない。それでさ、船の修理って頼めるかな?」
 ダメ元だったものの、イブキはあっさりと「構わんよ」と了承してくれた。
 俺は驚いた。イブキは船についても、もしかして詳しいのか? 意外だ。隠れ里って山の中にあるイメージだったから。
「ありがとう……! じゃあ、明日からよろしく頼むよ」
「分かった。里の長老から、ああいった船の説明書きを読んだことがある。実践は初めてだが、まぁ大丈夫だろう」
「そうか!」
 不安がなくはないけど、他に任せられる人がいない。信じて託そう。
 用事が済んだところで、俺はふと話題を変えた。さっきから、ひそかに気になっていたことがあったのだ。
「ところで、イブキ。じゃあイブキってどんな女性がタイプなんだ?」
 唐突にせよ、悪気なんてなかった。ただ、年頃の男子トーク的なものだったのに……イブキにギロリと睨みつけられた。
「黙れ。配慮なし王子」
「え!? な、何がだよ?」
「知らん。では、またあとでな」
「え、ちょっ、イブキ!」
 スタスタと去って行くイブキを、俺は慌てて追いかける。最近、多いな。
 イブキは村の井戸に向かっていった。縄を引っ張って水を汲み上げている。その後ろに俺は手持ち無沙汰で立った。
「な、なんかごめん。失礼なことを聞いたんなら」
「別にいい。悪気がないことくらい分かっている」
「本当にごめん……」
 理由を聞きたい。でも、それでは結局また『配慮なし王子』になってしまう気がして、それ以上は何も言えなかった。
「ほら。ラーシヴァルト」
 途方に暮れていると、イブキがコップ一杯の水を俺に渡してくれた。
 さりげない優しさがじんわりとくる。
「あ、ありがとう」
「……そういうラーシヴァルトは、どのような女性が好みなんだ?」
「え、俺?」
「人に聞いておいて、自分は答えないのか」
「う……そ、そうだよな」
 俺はコップを持ったまま、視線を上に向ける。そこには、一番星が輝く夜空が見えた。空気が澄んでいるからか、綺麗な星空だ。
 春とはいえ寒空の下、俺は考える。……好みの女性か。
「ないかも」
 イブキは意外そうな目を俺に向けた。
「ない? 本当に?」
「好きになった子がそのまま俺のタイプだよ。きっと」
 そういえば、初恋らしい初恋をしたことがない。唯一記憶にあるのは、幼い時に家庭教師だった年上女性への淡い恋心だ。
 今はもう既婚者であり、三児の子持ちの彼女。太陽みたいに朗らかな人だった。
「じゃあ、イブキは? 人に聞いたんだから、俺にも教えてくれよ」
 イブキは「しまった」というような顔をした。しばし逡巡した様子を見せたけど、観念してざっくりとではあるが誰かのことを話してくれた。
「太陽みたいな人」
「へえ! 奇遇だな。俺の初恋の人と同じだ」
「そうだったのか」
「うん。今はもう結婚して家庭を築いているけど……素敵な人だったな。はは」
「……」
 イブキはコップの水をぐいっと飲み干す。木製のコップを棚に置いて、立ち去っていこうとする。
「あ、イブキ。待ってくれよっ」
 俺も急いでイブキのことを追いかける。
 年頃の男子トークが弾んだ日だった。多分。

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