元王太子の俺、島国で王やってます!(※ブロマンス要素あり)
第八話
「お湯加減はどうでしたか?」
「ええ。とても気持ちよかったです。さっぱりしました」
薪で沸かす筒式風呂から出てきたカザロに声をかけると、彼はほかほかと湯気を出しながら至福の笑顔で答えた。
上半身は裸だ。湯上がりだからだろう。
「素敵な村ですね。自然豊かで、空気も綺麗で、お風呂まであるなんて」
「はは。ありがとうございます」
「住まわれている方々は、ラーシヴァルトさんたち四人だけですか?」
「ええ」
俺は貼り付けたような笑顔を返すしかない。
話を弾ませようとしているのは分かる。的外れな嫌疑だったら胸が痛いが、俺もまだ信頼しきれていない相手に迂闊に情報をもらすことは、できかねた。
「着替えを終えましたら、あちらの家にきてもらえますか? もう少し、事情をお聞きしたくて」
表向き優しい笑顔でさりげなくお願いすると、カザロはただ「分かりました」と頷き、いそいそと着替える。
そこへ、後ろからベニートがすたすたと通り過ぎていった。筒式風呂に向かう姿を見て、俺はぎょっとする。タオルは下に巻いているものの、上は何も隠していなかったからだ。
……超絶、貧乳の方?
一瞬、そう思った。だけど、違った。薄めとはいえ、胸板ががっしりとしているから。
「あの……」
なんと発言したらいいのか分からず言いよどむと、カザロが苦笑して応えた。
「ベニートは男性です。もしかして、女性だと勘違いしていましたか?」
「は、はい……。すみません」
「いえ。昔からよく間違われやすくて」
「その、大変綺麗な顔立ちをされていますもんね。はは」
失礼な勘違いをしてしまっていた。そうか、男性同士だったのか。
……って、ん?
海岸での、二人の仲睦まじい様子を思い出す。勝手に夫婦だと思い込んでいたけど、じゃあ兄弟とか幼なじみなのか? いまいち腑に落ちない。
「てっきり、ご夫婦かと。すみません」
「ふうふですよ」
「え?」
カザロを振り返ると、彼はにこりと微笑んで、でも挑戦的に訊ねた。
「僕たちは『夫夫』です。いけませんか?」
「い、いえ」
少し気圧されてしまった俺。
でも、そうか。同性愛者同士だったんだ。アルヴェルス王国でも見聞きしたことがある。
咄嗟に機転の利いた反応を返せなかったけど、飛び上がるほど驚くことでもなかった。だって、身近の騎士同士にいたから。
「失礼しました。……愛し合うのに、性別の壁なんて関係ないですよね」
「!」
さりげなく俺の考えを添えると、カザロはびっくりしていた。同時に挑発的な言動をとった己を恥じるように、そっと目を伏せる。
「……こちらこそ、すみません。恩人に対して」
「いえ。お気になさらないで下さい」
ふと思う。誰かを愛することができる人が、わざわざ漂着したふりをして俺たちの『国』にやってくる理由。それが物騒な刺客だとは思えない。
少しだけ心を許し、俺はカザロとともにリスガの自宅に向かった。その後もカザロから事情聴取をし――。
「――ラーシヴァルト殿下。いかがでしたか?」
カザロが部屋を出て行ってすぐ、レノスが気遣わしげな表情でやってきた。
文机に腰掛けて考え込んでいた俺は、顔を上げる。
「そっちは?」
「俺の方では、不審な動きをする者はおりませんでしたよ」
「そうか……俺の方も、問題なかった」
だから、本当にサーシェ人たちは純粋な難民なんだろう。予想通り、船を修理できたら、出て行くとも言っていたし。これ以上、警戒する必要はなさそうだ。
俺は文机の上でゆったりと指を組む。
「船がどのくらいで修理できるかにもよるけど、案外すぐに出て行くらしい。目下の課題はそれまでの食料確保だな」
四人から、いきなり十九人に人口が爆増した。備蓄食料なんて残り僅かだ。
先日、トマトは植えたとはいえ、実がなるまでまだまだだ。山や川の生き物たちのお世話になるしかない。
レノスは懐からサッと例のアレを取り出した。
「では、次はナスの種を植えましょうかね」
「しつこい」
笑い事か。こっちは真剣に話をしているのに。