生真面目秘書だった彼がハイスペ副社長になって滾る執愛を刻み込んできます
「ふーん、なるほど。大丈夫よ、ランチミーティングを入れておいて」

 それだけ言うと、歩を進めようとする。
 しかし、背後からなにか言いたげな視線を感じ、再び足を止めて光輝を振り返った。

「ディナーじゃなくてよかったわ。ランチなら、すぐに退散できるでしょう?」

 ディナーだった場合、会食の後に場所を変えてお酒でもなんて話に流れることが多い。だが、ランチなら『この後ほかにも商談があるので』などと言って逃げられる。

 そこまで心配する必要はない。そう判断したのだが、光輝は違うようだ。
 いまだになにか物言いたげな様子の彼を見て、理彩子は腰に手をあてて顔を上げる。

「経営者がどうであれ、あそこの商品はいいわ。絶対にこの商談はまとめたい」
「社長」
「そういう相手を軽くあしらえる手腕はある。心配はいらないわ。それに――」

 クールな態度ではあるが、光輝は理彩子に対して並々ならぬ忠誠心があるのを知っている。
 同時に、過保護であるということも。

 だてに五年も一緒にバディを組んでいない。腕組みをし、背の高い光輝を見上げる。
 チタンフレームのメガネ越しに彼を見つめて口もとを緩めた。

「なにかあれば、私の腹心の部下が助けてくれるでしょう? だから、私は大船に乗った気持ちで商談に行けるのよ」

 この五年間、光輝が常に理彩子のそばを離れずに支えてくれた。だからこそ、安心してどんな相手でも立ち向かえたのだ。

 もちろん光輝にばかり頼ってなどいられないし、頼るつもりはない。
 自分の足でしっかりと立てる人間でなければ、会社のトップになどなれないだろう。
 その努力はたゆまずしてきたつもりだ。

 
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