クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
「……これからは、遠くから見ているだけじゃなくていいんだな」
「……はい、誰よりも近くで見てくださいね」
「ああ、そうさせてもらうよ」

先輩がそう言って笑う。

その穏やかな声を聞いただけで、胸の奥がじんわり熱くなって、私はまた先輩の胸元へ頬を寄せた。

大きな手が、私の髪をゆっくりと撫でていく。
昨日まで、ずっと遠くから見つめることしかできなかった人の手。

仕事中、フロアの向こう側にいる横顔を見つけるだけで嬉しくて。
……でも同時に、「先輩」と「後輩」という距離を超えられる日が来るなんて、夢にも思っていなかった。

それなのに今は、その人の鼓動が耳のすぐ近くで静かに響いている。
時々、少しだけ速くなるのが分かって、そのたびに胸がくすぐったくなった。

「……先輩、心臓、ちょっと速いです」
「……うるさい」

低い声で返しながら、先輩は少し照れたみたいに私の額を軽く小突く。
そんな反応が嬉しくて、私は思わず笑ってしまった。
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