クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
ターミナル駅の改札を抜け、コンコースの分岐点。
ここを曲がれば、今日という時間は終わる。

絶え間なく行き交う人々の波を避けるように、俺は不意に足を止めた。
せめて最後だけは。先輩としての立場に隠した、ほんの少しの甘え。

「……りんりん」
「はい」
「……色々あったけど、よく頑張ったな、本当に」

そう言って、俺は彼女の頭にそっと手を置いた。
「よくできた後輩」を労うようなフリをして、本当は壊れ物を扱うように、その温もりを手のひらに刻み付ける。
髪の柔らかな感触が、狂いそうになるほど愛おしかった。

「……じゃあ。おやすみ」

それだけを告げ、俺は反対方向の乗り換え通路へと歩き出した。
振り返ってはいけない。
もし一度でもあの顔を見てしまったら、今度こそ俺は、帰る電車を捨てて彼女の手を引いてしまう。

雑踏に紛れながら、俺は撫でたばかりの右手をきつく握りしめた。
時間が解決してくれるなど、ただの幻想だ。
自分の手で彼女を突き放しておきながら、離れれば離れるほど、この想いは底なしに深くなっていくことだけを、嫌というほど思い知らされた夜だった。
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