契約恋人のはずでしたが社長に溺愛されて離してもらえません

2章 甘すぎる恋人役

「緊張しているのか」

会場に入る直前、低い声が耳元に落ちた。

「……少しだけ」

正直に答えると、社長は小さく息をついた。

「肩の力を抜け。いつも通りでいい」

「いつも通り、ですか」

「そうだ」

そう言われても——今日は“いつも通り”じゃない。

扉が開かれ、パーティー会場に入る。

華やかな照明、交わされる挨拶。

ここまでは、何度も経験してきた光景だ。

——秘書としてなら。

「幸田社長、本日はありがとうございます」

「こちらこそ、お招きいただき光栄です」

隣で交わされるやり取りに、私は一歩下がろうとする。

その瞬間。

「下がるな」

小さく囁かれ、手首を取られた。

「……っ」

驚く間もなく、自然な動きで指が絡む。
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