契約恋人のはずでしたが社長に溺愛されて離してもらえません
「力が入っている」

耳元で囁かれる。

「すみません」

小さく答えると、腰に回された手がほんのわずかに引き寄せた。

「こういうものだ」

「……そう、ですね」

恋人なら、これが普通。そう理解はできる。

けれど——。

「今日はずいぶんと親密ですね」

別の人物が、含みのある笑みを向けてくる。

「そう見えますか」

社長は軽く返す。

「ええ。以前よりずっと」

その言葉に、周囲の視線が集まる。

探るような、戸惑うような空気。

——無理もない。

これまで私は、あくまで“秘書”として隣に立っていた。

距離を保ち、感情を見せず、必要以上に近づかない。

それが——今は。

「……行くぞ」

手を引かれ、歩き出す。

その動きはあまりにも自然で、迷いがない。
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