契約恋人のはずでしたが社長に溺愛されて離してもらえません
「社長」

思わず小さく呼ぶ。

「なんだ」

「……少し、近すぎませんか」

正直な言葉だった。

すると、社長は一瞬だけ視線をこちらに向ける。

「そうか?」

「はい」

「恋人なら、これくらいだろう」

当然のように言われる。

「……そういうもの、ですか」

「不満か」

低く問われ、私は首を振った。

「いえ……問題ありません」

問題はない。

仕事としてやるべきことをやっているだけ。

それなのに——。

腰に回された手の温もりも、絡められた指も。

どれもがやけに鮮明に意識に残る。

「……甘いですね」

思わず、そんな言葉が零れた。

「何がだ」

「恋人、というのは」

言いながら、視線を逸らす。

すると、社長はほんのわずかに口元を緩めた。

「そうだな」

その一言が、やけに静かに胸に落ちた。
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