契約恋人のはずでしたが社長に溺愛されて離してもらえません
視線が交わることはない。ただ必要な情報だけをやり取りする。

「……十分だな」

短い一言。それだけで、この人の中では“合格”なのだろう。

「ありがとうございます」

形式的に答えて、私は一歩下がる。

社長秘書として求められるのは、正確さと速さ、そして余計な感情を持ち込まないこと。

それができていれば、それでいい。

「清水さん、これお願いできますか?」

外に出ると、同僚に声をかけられた。

「会議資料、もう一度チェックしてほしくて」

「いいですよ。五分ください」

「助かります」

資料を受け取り、ざっと目を通す。

誤字、数字のズレ、表記の揺れ——細かい部分まで確認していく。

「……ここ、修正しておきますね」

「え、もう見つけたんですか?」
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