契約恋人のはずでしたが社長に溺愛されて離してもらえません
「小さいですが、後で困るので」

「本当にすごいですね、清水さん」

感心したように言われても、私は軽く首を振る。

「慣れです」

それ以上の会話はしない。

褒められても、特別嬉しいわけでもないし、広げる必要もない。

仕事は仕事。それ以上でも、それ以下でもない。

——だから私は、誰とも近づきすぎない。

社長とも、同僚とも。

一定の距離を保っていれば、余計な感情に振り回されることもない。

そう思っていた。

「清水」

背後から再び声がかかる。

振り返ると、幸田社長が立っていた。

「少し時間をくれ」

「はい。すぐに調整します」

私は迷いなく答える。

それがどんな用件であっても、仕事である以上、対応するだけ。

——この時はまだ、それが“仕事では済まない話”になるなんて、思ってもいなかった。
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