契約恋人のはずでしたが社長に溺愛されて離してもらえません
「こちらへ」

自然にエスコートされ、席に着く。

「社長、ここまで来る必要は……」

「近いだろう」

「そうですが」

それだけじゃない、と言いかけてやめる。

「好きなものを選べ」

メニューを差し出される。

「軽いもので大丈夫です」

「遠慮するな」

この前と同じやり取り。

それなのに、どこか慣れてきている自分がいる。

注文が終わり、料理が運ばれるまでの間、沈黙が続く。

「……あの」

先に口を開いたのは私だった。

「先ほどの会食ですが、やはり変更は難しいかと」

「そうだろうな」

あっさりと返される。

「では、なぜ——」

「おまえが忙しそうだったからだ」

その一言に、言葉が止まる。

「……それだけ、ですか?」

「それ以外に何がある」
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