契約恋人のはずでしたが社長に溺愛されて離してもらえません
「少し時間をくれ」

会議室に通され、ドアが静かに閉まる。

「こちらでよろしいですか?」

私は向かいの席に座りながら尋ねた。

「ああ」

短く頷いたあと、社長——幸田湊はしばらく何も言わなかった。

長い沈黙。けれど私は急かさない。ただ次の言葉を待つ。

やがて彼は、低い声で切り出した。

「……実は俺に政略結婚の話が持ち上がっているんだ」

「政略結婚?」

思わず聞き返してしまう。

「今の時代に、ですか?」

「珍しくはない。特にうちのような立場ならな」

淡々とした口調。

けれど、その奥にわずかな苛立ちのようなものを感じた。

「お相手は、すでに決まっているんですか?」

「ほぼな。先方は乗り気だ。断れば面倒なことになる」

「……そうですか」

私は頷いた。
< 4 / 30 >

この作品をシェア

pagetop