恋が終わっても、人生は続いていく

第11話:最後の温度

どれくらい、そこにいただろう。

時間の感覚が、なくなっていた。



白い部屋。

静かな機械音。

動かない彼。



現実なのに、

どこか現実じゃないみたいで。



「……蓮さん」



呼んでも、

返事はない。



わかってる。

もう、わかってる。



それでも。



「……起きてください」



声が、震える。



こんなこと言っても、

意味がないって、

ちゃんとわかってるのに。



「仕事、まだ残ってますよ」



少しだけ笑おうとする。

でも、うまく笑えない。



「私、まだ教えてもらってないこと、いっぱいあるのに」



ぽつり、ぽつりと、

言葉がこぼれる。



返事は、ない。



当たり前なのに。



それが、

こんなにもつらい。





ベッドの横に座る。



そっと、

手を取る。



やっぱり、冷たい。



(違う)



こんなはずじゃなかった。



もっと、

温かかったはずなのに。





思い出す。



初めて、手を繋いだとき。



少しだけ強くて、

でも優しくて。



「……嫌か」



あの声。



「……いえ」



そう答えた自分。





あのときの温もりが、

まだ手に残っている気がして。



ぎゅっと、

握りしめる。





「……なんで」



小さく、呟く。



どうして。



どうして、

この人なの。





やっと、

好きになれたのに。



やっと、

怖いって思いながらも、

踏み出せたのに。





「なんで……」



声が、崩れる。





「帰ってくるって、言ったじゃないですか」



震える声。



「大丈夫だって……」



あのときの言葉が、

頭の中で繰り返される。



――大丈夫だろ。



(全然、大丈夫じゃない)





「約束、守ってくださいよ……」



涙が、

ぽろぽろと落ちる。



止めようとしても、

止まらない。





「……置いていかないで」



初めて、

本音がこぼれる。





怖かった。



ずっと。



また失うことが。



だから、

距離を取ろうとして。



好きにならないようにして。





それなのに。



結局、

好きになって。





「……やっぱり、ダメだった」



呟く。





「私が好きになると……」



言いかけて、

声が詰まる。





(違う)



どこかで、

わかってる。



本当は。





でも。



認めたくなかった。





「……会いたい」



ぽつりと、

落ちる言葉。





さっきまで、

隣にいたのに。



声を聞いていたのに。





もう、

二度と会えない。





その現実が、

遅れて押し寄せる。





「……会いたいよ」



声にならない声。





肩が震える。



涙が、

止まらない。





「……好き、でした」



やっと、

言えた。





ちゃんと、

言えてなかった言葉。





もっと、

伝えればよかった。



もっと、

一緒にいればよかった。



もっと、

もっと――





後悔が、

溢れて止まらない。





「……好きです」



もう一度、

言う。





でも。



その言葉は、

もう届かない。





静かな部屋に、

涙の音だけが響く。





手を、

離したくなかった。



このまま、

ずっと。





でも。



その温度は、

戻ってこない。





(終わったんだ)



やっと、

理解する。





この恋は。



もう、

戻らない。





それでも。



この気持ちだけは、

消えなかった。





最後まで、

残ってしまった。





好き、という感情だけが。
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