恋が終わっても、人生は続いていく

第5話:特別扱い



「先輩、今日そっち行っていいですか」



昼休み。

何でもない顔で、玲央が言った。



「……今日も?」



思わず、聞き返してしまう。



「ダメですか?」



軽い口調。

でも、目は少しだけこちらを見ている。





(ダメに決まってる)



そう思う。



こんな関係、

続けていいはずがない。





なのに。





「……仕事、遅くなるから」



完全な拒否じゃない言い方をしてしまう。





「じゃあ、そのあとで」



即答だった。





(なんで……)



断れない。





(私が呼んでるみたいじゃない)



自分で、自分に嫌になる。





その夜。



また、同じ部屋。



同じ距離。





「お邪魔します」



もう、

その言葉に違和感はなかった。





(慣れてる……)



それが、一番怖い。





「今日、疲れました」



ソファに座りながら、

玲央が言う。





「仕事?」



「まあ、いろいろ」



曖昧な返事。



でも。



そのまま、

自然に横に座る。





近い。



でももう、

前みたいに避けられない。





「先輩のとこ、落ち着くんですよね」





その一言。





(……何それ)





心が、

揺れる。





「他のとこだと、なんか疲れるんですよ」





さらっと言う。





(他のとこ)





わかってる。



他にも、

行く場所があることくらい。





でも。





「……そう」



平静を装う。





「先輩は、ちょうどいい」





「ちょうどいい?」





「うるさくないし」



軽く笑う。





「……それ、褒めてる?」





「褒めてますよ」





その距離で、

そう言う。





(ずるい)





こんな言い方、

されたら。





(私だけ、って思うじゃない)





なのに。





「……他にも、そういう人いるんでしょ」





つい、

聞いてしまう。





玲央は、

少しだけ間を置いた。





「まあ、いますね」





あっさり。





胸が、

チクッとする。





(やっぱり)





わかってたことなのに。





「でも」





ふいに、

続ける。





「先輩は、ちょっと違う」





「……何が?」





「なんとなく」





また、それ。





曖昧で。



でも、

一番危ない言葉。





(違うって、何)





聞きたいのに。





聞いたら、

壊れそうで。





「……適当ね」





笑ってごまかす。





でも。





心の奥では、

もう。





(私だけ……?)





そんな期待が、

生まれてしまっていた。





その夜。





また、

同じように過ごして。





同じように、

触れて。





同じように、

離れられなくなる。





「泊まっていいですか」





「……明日、仕事でしょ」





「朝、ここから行けばいい」





当たり前みたいに言う。





(本当に、距離おかしい)





でも。





「……好きにすれば」





もう、

止められなかった。





朝。





キッチンに立つ。





簡単な朝食を作る。





誰かのために作るなんて、

久しぶりだった。





「すげえ、ちゃんとしてる」





後ろから声。





振り返ると、

またあの姿。



タオルを肩にかけて。





(慣れてきてる自分が怖い)





「食べる?」





「食べます」





自然な会話。





まるで、

普通の恋人みたいに。





(違うのに)





わかってる。





これは、

そういう関係じゃない。





なのに。





「いただきます」





その声を聞いて。





(……幸せ)





そう思ってしまった。





それが、

一番危なかった。
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