恋が終わっても、人生は続いていく

第6話:依存の始まり

⸻

「鍵、ここでいいですか」

⸻

あまりにも自然に言われて、

一瞬、意味がわからなかった。

⸻

「……何の鍵?」

⸻

「部屋の」

⸻

⸻

(……は?)

⸻

⸻

思考が止まる。

⸻

⸻

「いや、無理よ」

⸻

すぐに否定する。

⸻

当たり前だ。

⸻

そこまでの関係じゃない。

⸻

⸻

「じゃあ、いちいち呼びます?」

⸻

軽い口調。

⸻

「それもどうかと思うんで」

⸻

⸻

(何を言ってるの、この子)

⸻

⸻

普通じゃない。

⸻

考え方も。

距離感も。

⸻

⸻

「……冗談でしょ」

⸻

⸻

「半分」

⸻

⸻

「半分って何」

⸻

⸻

くすっと笑う。

⸻

⸻

「先輩、断るの下手ですよね」

⸻

⸻

図星だった。

⸻

⸻

「……関係ないでしょ」

⸻

⸻

「いや、関係ありますよ」

⸻

⸻

近い。

⸻

また、

この距離。

⸻

⸻

「俺、ここ来やすいから」

⸻

⸻

「来やすいって……」

⸻

⸻

「落ち着くし」

⸻

⸻

また、それ。

⸻

⸻

(そういうこと言うの、ずるい)

⸻

⸻

心が、

少しずつ緩んでいく。

⸻

⸻

(ダメ)

⸻

わかってる。

⸻

これは、

良くない方向だって。

⸻

⸻

でも。

⸻

⸻

「……置いてかないでよ」

⸻

⸻

ぽつりと、

出てしまった言葉。

⸻

⸻

自分でも、

驚く。

⸻

⸻

(今の、何)

⸻

⸻

玲央は、

少しだけ目を細めた。

⸻

⸻

「置いてかないですよ」

⸻

⸻

その声は、

いつもより少しだけ低かった。

⸻

⸻

「先輩がいいって言う限りは」

⸻

⸻

その言葉が、

深く刺さる。

⸻

⸻

(……私次第?)

⸻

⸻

つまり。

⸻

⸻

私が望めば、

この関係は続く。

⸻

⸻

でも。

⸻

⸻

(望まなかったら、終わる)

⸻

⸻

その事実が、

逆に怖かった。

⸻

⸻

「……じゃあ」

⸻

少しだけ迷って。

⸻

⸻

「合鍵は、なし」

⸻

⸻

線を引く。

⸻

⸻

せめてもの、

理性。

⸻

⸻

「了解」

⸻

あっさり引く。

⸻

⸻

でも。

⸻

⸻

「その代わり、来る頻度増えますけど」

⸻

⸻

「……意味ないでしょ、それ」

⸻

⸻

「そうっすね」

⸻

⸻

笑う。

⸻

⸻

(ダメだ、この人)

⸻

⸻

距離を保てない。

⸻

⸻

その夜も、

当たり前みたいに一緒に過ごす。

⸻

⸻

食事をして。

⸻

話して。

⸻

触れて。

⸻

⸻

そして、

朝を迎える。

⸻

⸻

「コーヒーあります?」

⸻

⸻

キッチンに立つ私に、

背後から声。

⸻

⸻

「あるわよ」

⸻

⸻

「先輩のやつ、美味いんですよね」

⸻

⸻

自然な会話。

⸻

⸻

まるで、

ここが彼の家みたいに。

⸻

⸻

(おかしいでしょ)

⸻

⸻

でも。

⸻

⸻

「はい」

⸻

⸻

カップを渡す。

⸻

⸻

「どうも」

⸻

⸻

そのまま飲む。

⸻

⸻

何の遠慮もない。

⸻

⸻

でも。

⸻

⸻

(嫌じゃない)

⸻

⸻

それが、

一番まずい。

⸻

⸻

「今日も来ていいですか」

⸻

⸻

また。

⸻

⸻

「……仕事による」

⸻

⸻

完全には拒否しない。

⸻

⸻

「じゃあ、終わったら連絡します」

⸻

⸻

当然のように言う。

⸻

⸻

(私の生活に入ってきてる)

⸻

⸻

もう、

完全に。

⸻

⸻

なのに。

⸻

⸻

「……わかった」

⸻

⸻

受け入れてしまう。

⸻

⸻

(終わってる)

⸻

⸻

自分で思う。

⸻

⸻

もう、

引き返せないところまで来てる。

⸻

⸻

それでも。

⸻

⸻

「じゃあ、行ってきます」

⸻

⸻

玄関で、

軽く手を振る。

⸻

⸻

その姿を見て。

⸻

⸻

(……また来るんだ)

⸻

⸻

そう思った瞬間。

⸻

⸻

安心してしまった。

⸻

⸻

それが、

すべてだった。
< 19 / 39 >

この作品をシェア

pagetop