恋が終わっても、人生は続いていく

第7話:他の女の存在



「今日、来ます?」



仕事終わり。

いつものメッセージ。



少しだけ、間を置く。



(また来るんだ)



そう思うと、

少し安心してしまう自分がいる。



(ダメだって、わかってるのに)



スマホを見つめたまま、

ため息をつく。



『遅くなるなら無理しなくていいわよ』



そう送る。



本音じゃない。



でも、

素直に「来て」とは言えなかった。





返信は、すぐ来た。



『じゃあ、行きます』



(……来るんだ)



また、

胸が少しだけ軽くなる。





部屋を整える。



別に、

誰かを迎えるための部屋じゃないのに。



気づけば、

彼のために動いている。





チャイムが鳴る。



「どうも」



いつも通りの顔。



「遅かったわね」



「ちょっと寄るとこあって」





(寄るとこ……)



一瞬だけ、

引っかかる。





「何か飲む?」



「水でいいです」





キッチンに立つ。



その間に、

彼はソファに座る。





まるで、

ここが自分の居場所みたいに。





「はい」



グラスを渡す。



「どうも」



飲みながら、

スマホを見る。





画面が、

少しだけ見えた。





女性の名前。



知らない名前。



でも。



(……一人じゃない)



それだけは、

はっきりわかる。





「……忙しそうね」



何気ないふりで言う。





「まあ、そこそこ」





軽い返事。





「さっきの人?」





「さっきの?」





「寄るとこあったって」





少しだけ、

間が空く。





その沈黙で、

わかってしまう。





「……まあ」





あっさり。





(ああ)





やっぱり。





胸の奥が、

じわっと痛む。





「……そう」





それ以上、

何も言えなかった。





(何期待してたの)





最初から、

わかってたのに。





この人は、

そういう人だって。





「どうかしました?」





何でもない顔で、

聞いてくる。





「別に」





笑ってごまかす。





でも。





(痛い)





思ったよりも、

ずっと。







その夜。





いつもと同じように、

過ごす。





話して。



触れて。



近くにいて。





でも。





(違う)





全部、

違って感じる。





さっきの名前が、

頭から離れない。





(このあとも、行くの?)





(私のあとに)





考えたくないのに、

浮かんでしまう。





「先輩」





呼ばれる。





「なんか今日、静かですね」





「そう?」





「いつもより」





(気づくんだ)





そう思うと、

少しだけ腹が立つ。





「……あなたは」





気づけば、

口が動いていた。





「他にも、こういう人いるんでしょ」





はっきりと、

言ってしまう。





沈黙。





少しだけ、

空気が変わる。





「……まあ、いますね」





また、

あっさり。





(……やっぱり)





胸が、

ぎゅっと締まる。





「……そう」





それしか言えない。





否定してほしかったわけじゃない。



でも。





(少しは、迷ってほしかった)





そんな感情が、

出てしまう。





「先輩は」





ふいに、

玲央が言う。





「そういうの、気にするタイプなんですね」





「普通でしょ」





少しだけ、

強く返す。





「まあ、普通はそうか」





軽く笑う。





(この人……)





何も変わらない。





私がどう思っても。



何を感じても。





この人の中では、

全部同じなんだ。





「……帰れば?」





ぽつりと、言う。





玲央が、

少しだけこちらを見る。





「怒ってます?」





「怒ってない」





嘘だった。





でも。





「別に、あなたの自由でしょ」





それが、

現実だった。





縛る権利なんて、

ない。





「そうですね」





あっさり。





その言葉が、

また刺さる。





(終わりにしなきゃ)





そう思う。





これ以上は、

無理だ。





なのに。





「……泊まる?」





言ってしまう。





(なんで)





自分でも、

わからない。





玲央は、

少しだけ笑った。





「いいんですか」





「……好きにすれば」





もう、

ぐちゃぐちゃだった。





正しいことも、

間違ってることも。





全部、

わかってるのに。





止められない。





(終わってる)





そう思いながらも。





その夜も、

一緒にいた。





それが、

答えだった。
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