恋が終わっても、人生は続いていく

第9話:崩れ始める



「今日、無理です」



短いメッセージ。



画面に表示されたそれを、

美海はしばらく見つめていた。



(……そっか)



ただそれだけなのに。



胸の奥が、

じわっと冷える。





『了解』



それだけ返す。





(普通でしょ)



忙しい日もある。



来れない日もある。





今までだって、

毎日来てたわけじゃない。





なのに。





(なんでこんなに……)





寂しい。





スマホを伏せる。



考えないようにする。





でも。





(昨日も来なかった)





一昨日も。





その前は、

来ていた。





(なんで)





バランスが、

少しずつ崩れていく。







次の日。





会社。





「おはようございます」





いつも通りの声。





「……おはよう」





振り返ると、

玲央がいた。





いつもと同じ顔。





(普通だ)





昨日、

来なかったことなんて、

何もなかったみたいに。





「昨日、忙しかった?」





軽く聞く。





「まあ、ちょっと」





それだけ。





それ以上、

何も言わない。





(それだけ?)





「そう」





それしか、

返せなかった。





(何も聞けない)





聞く資格がない。





わかってる。





この関係は、

そういうものだから。







「先輩」





「なに」





「今日も無理です」





「……そう」





また。





あっさり。





(なんで、直接言うの)





メッセージでよかったのに。





その一言で、

余計に現実になる。







帰り道。





一人で歩く。





久しぶりだった。





この時間に、

一人なのは。





(前は普通だったのに)





それが、

当たり前だったはずなのに。





今は。





(なんか、空いてる)





隣に、

誰もいない。





その事実が、

こんなにも違和感になるなんて。





(おかしい)





自分が。







部屋に戻る。





静か。





何も変わってないのに。





(違う)





何かが、

足りない。





ソファに座る。





無意識に、

隣を見る。





(いない)





当たり前なのに。







スマホを手に取る。





開く。





何も来ていない。





閉じる。





また開く。





何もない。





(何やってるの)





ため息をつく。





(こんなの……)





依存じゃない。





そう思いたいのに。







次の日も。



その次の日も。





来ない。





連絡も、

必要最低限。





(こんなに、あっさり?)





今までが、

嘘みたいに。







会社では、

普通。





話すし。



距離も近いし。





でも。





「じゃあ、また」





帰りは、

別々。





その違いが、

一番きつい。





(なんなの、これ)





近いのに。



遠い。





(やめたい)





そう思う。





もう、

無理だ。





このままじゃ、

壊れる。





でも。





「今日、来ます?」





気づけば、

送っていた。





(……は?)





自分で、

驚く。





(やめたいんじゃなかったの?)





矛盾してる。





でも。





送信取り消しは、

しなかった。







数分後。





『今日は無理です』





また、それ。





(……そっか)





わかってたのに。





胸が、

少しだけ痛む。







(終わりにしなきゃ)





そう思う。





でも。





(終わらせたくない)





その気持ちの方が、

強かった。
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