恋が終わっても、人生は続いていく

第10話:決定打



「今日、直帰でいいぞ」



夕方。

上司の一言で、予定が空いた。



(早く帰れる……)



そう思った瞬間、

浮かぶのは一人だけ。



(……来るかな)



頭ではやめようと思っているのに。



指はもう、

スマホを開いていた。



『今日、早く帰れるけど』



送る。



すぐに後悔する。



(何してるの、私)





既読は、つかない。



数分。



何も変わらない画面。





(やっぱり、やめればよかった)





スマホをバッグにしまう。



帰ろう。



今日は、

ちゃんと一人で過ごそう。





駅に向かう。



夕方の人混み。



少しだけ、

いつもより早い時間。





(このまま帰ればいい)



そう思っていた。





そのとき。





見覚えのある背中が、

視界に入った。





(……え?)





足が止まる。





あの歩き方。



あの雰囲気。





間違えるはずがない。





(玲央……)





少しだけ距離がある。



でも、

はっきり見える。





(誰かといる)





隣に、

女性。





知らない人。



でも、

距離が近い。





笑っている。





自然に。





(……そうだよね)





頭の中で、

冷静な声がする。





わかってた。





この人は、

そういう人だって。





でも。





(見たくなかった)





胸の奥が、

じわじわと痛む。





玲央が、

その女性の肩に手を回す。





その仕草が、

あまりにも自然で。





(私のときと同じ)





その事実が、

一番きつかった。





(特別じゃなかった)





全部、

同じ。





私も。



あの人も。





何も違わない。





足が、

動かない。





見なきゃよかったのに。





なのに、

目が離せない。





二人が、

ビルの中に入っていく。





見えなくなる。





そこで、

やっと。





呼吸が戻る。





「……は」





小さく、

息が漏れる。





(終わった)





やっと、

理解する。





もう、

誤魔化せない。





(これが現実)





好きとか。



特別とか。





全部、

ただの思い込みだった。





スマホが震える。





(……今さら?)





画面を見る。





玲央から。





『今日、無理です』





その一文。





さっき見た光景と、

ぴったり重なる。





(ああ)





同じなんだ。





私に送ってるこのメッセージも。





あの人といる時間も。





全部、

同時に存在してる。





「……最低」





ぽつりと、

呟く。





でも。





(最低なのは、私かも)





わかってたのに。





見ないふりして。



続けて。





勝手に、

期待して。





傷ついてる。





全部、

自分で選んだのに。





足が、

ゆっくり動き出す。





駅に向かう。





人の流れに混ざる。





何も変わらない街。





でも。





(全部、終わった)





そう思った。





なのに。





胸の奥に残るのは。





怒りでも、

悲しみでもなく。





(……まだ、好き)





それが、

一番つらかった。
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