恋が終わっても、人生は続いていく

第6話:罪悪感



「今日、帰るの遅くなる」



夫の声。



リビングで、何気なく発せられた一言。



「……そう」



沙織は、いつも通りに返す。





(いつも通り)





何も変わらない。





変わっているのは、

自分だけ。







スマホが震える。





神崎から。





『今日、空いてる?』





その一文。





(……来た)





胸が、

少しだけ高鳴る。





(ダメ)





すぐに、

もう一つの声が出る。





こんなの、

続けちゃいけない。





やめるべき。





そう思う。





でも。





(会いたい)





その気持ちが、

強すぎる。





スマホを見つめる。





しばらく、

動けない。





(どうするの)





問いかける。





(やめる?)





(会う?)





答えは、

わかっている。





『少しだけなら』





送ってしまう。





(……終わってる)





自分で思う。





でも。





もう、

止められない。







その夜。





また、

同じ距離。





同じ空気。





「無理してないか」





神崎が、

ふと聞く。





「……してない」





嘘だった。





(してる)





ずっと。





「してる顔してる」





また、それ。





逃げ場がない。





「……なんか」





言葉を探す。





「変な感じ」





正直な気持ち。





「何が」





「全部」





苦笑する。





「楽しいし」





「安心するし」





「……でも」





そこで、

止まる。





(言いたくない)





でも。





「罪悪感がすごい」





はっきり言う。





沈黙。





神崎は、

少しだけ視線を落とした。





「まあ、そうだろうな」





あっさりと。





(否定しないんだ)





「やめるか」





ふいに言う。





(……え)





顔を上げる。





「無理してるなら、やめた方がいい」





冷静な声。





優しさなのか。





それとも、

線引きなのか。





わからない。





「……やめない」





気づけば、

即答していた。





(なんで)





自分でも、

わからない。





でも。





「やめられない」





それが、

本音だった。





神崎は、

少しだけ息を吐いた。





「そっか」





それだけ。





責めない。





止めない。





それが、

余計に苦しい。





(この人も)





同じなんだ。





わかってて、

続けてる。







帰り道。





一人で歩く。





夜の空気が、

少し冷たい。





(何やってるんだろう)





考える。





家には、

夫がいる。





ちゃんとした生活。





安定した関係。





それなのに。





(全部裏切ってる)





その事実が、

重くのしかかる。





玄関を開ける。





「おかえり」





夫の声。





「……ただいま」





顔を見る。





いつも通り。





何も知らない顔。





(この人は何も悪くない)





そう思うと、

胸が締め付けられる。





「ご飯、食べる?」





「いい」





また、それ。





(……なんで)





こんなにも、

違うのか。





さっきまでの時間と。





この空間が。





(戻れない)





でも。





(壊したくない)





矛盾してる。





どっちも、

捨てられない。





ベッドに入る。





隣に、

夫がいる。





でも。





触れられることはない。





距離は近いのに。





何もない。





(さっきは……)





思い出す。





温もり。





声。





触れ方。





(ダメ)





頭を振る。





こんなこと、

考えちゃいけない。





でも。





(忘れられない)





そのまま、

目を閉じる。





眠れない。





ただ、

時間だけが過ぎていく。





そして。





罪悪感だけが、

残る。
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