恋が終わっても、人生は続いていく

第10話:選ばない



「……ごめん」



その一言が、

すべてだった。





神崎は、

何も言わずにこちらを見る。





「行けない」





言葉を重ねる。





「一緒には、行けない」





静かな声。





でも、

はっきりと。





沈黙。





少しだけ、

長い時間。





神崎は、

ゆっくり息を吐いた。





「理由、聞いていいか」





責めるような声じゃない。





ただ、

確認するみたいに。





「……好きだから」





ぽつりと、

言う。





(……え?)





自分でも、

少し驚く。





でも。





それが、

一番しっくりきた。





「一緒にいたら」





言葉を探す。





「多分、全部あなたに預けちゃう」





「仕事も」





「生活も」





「自分のことも」





全部。





「それって」





少しだけ、

笑う。





「楽だと思う」





正直な気持ち。





「でも」





そのあと、

ゆっくり続ける。





「それじゃ、ダメだと思った」







神崎は、

何も言わない。





ただ、

聞いている。





「今まで」





少しだけ、

視線を落とす。





「ちゃんとしなきゃって思って生きてきて」





「結婚もして」





「でも、結局」





「自分が何したいか、わからないままだった」





言葉にしながら、

気づく。





(私、空っぽだったんだ)





「あなたといると」





顔を上げる。





「楽しいし」





「満たされるし」





「ちゃんと、女でいられる」





それは、

本当だった。





「でも」





一度、

息を吸う。





「それって、あなたがいるからでしょ」







「あなたがいなくなったら、また空っぽになる」





それが、

怖かった。





「だから」





はっきり言う。





「自分で立てるようになりたい」





それが、

答えだった。





沈黙。





長い、

静かな時間。





神崎が、

少しだけ笑う。





「……らしいな」





その一言。





責めない。





否定しない。





ただ、

受け止める。





「正直」





神崎が、

ぽつりと言う。





「連れてくつもりだった」





「迷わず来ると思ってた」





少しだけ、

苦笑する。





「……ごめん」





「謝るな」





すぐに返される。





「そういうやつだろ、お前」





その言い方に、

少しだけ笑う。





(この人は、やっぱり優しい)





「……好きだよ」





神崎が言う。





まっすぐに。





「俺も」





その言葉。





胸が、

少しだけ痛む。





(やめてよ)





そう思うのに。





嬉しい。





「でも」





続ける。





「お前の選び方も、嫌いじゃない」







その言葉で、

少しだけ救われる。





「……ありがとう」





それしか、

言えなかった。







少しの沈黙。





そして。





「じゃあな」





神崎が、

軽く手を上げる。





「……うん」





それで、

終わりだった。





振り返らない。





呼び止めない。





それが、

二人の最後。







一人になる。





夜の街。





少しだけ、

風が冷たい。





(終わった)





胸が、

じんわり痛む。





でも。





(これでいい)





そう思えた。





涙は、

出なかった。





ただ。





(ちゃんと、自分で選んだ)





その感覚だけが、

残っていた。
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