恋が終わっても、人生は続いていく

第11話:一人の生活



朝。



目覚ましの音で、

ゆっくりと目を開ける。



(……朝か)



少しだけ、

ぼんやりしたまま天井を見る。





静か。





隣には、

誰もいない。





(当たり前)





少し前までは、

この静けさが苦手だった。





でも。





今は、

少しだけ違う。





体を起こす。





カーテンを開ける。





光が入る。





「……いい天気」





小さく呟く。





それだけのことなのに、

少しだけ気持ちが軽くなる。





キッチンに立つ。





コーヒーを淹れる。





湯気が立つ。





その香りを、

ゆっくり吸い込む。





(……落ち着く)





誰かのためじゃない。





自分のために、

朝を整える。





それが、

こんなに楽だなんて。







仕事。





「橘さん、これお願いできますか」





「いいですよ」





自然に答える。





以前と同じ会話。





同じ仕事。





でも。





(違う)





自分の中の感覚が、

少しだけ変わっている。





「最近、調子よさそうですね」





後輩に言われる。





「そう?」





「なんか、雰囲気が柔らかいです」





(……そうなんだ)





少しだけ、

考える。





(前はどうだったんだろう)





無理してたかもしれない。





ちゃんとしなきゃって。





崩れないようにって。





でも。





(今は)





少しだけ、

力が抜けている。







昼休み。





一人でカフェに入る。





窓際の席。





同じ場所。





(前も、ここで)





思い出す。





あの時間。





あの会話。





「大丈夫?」





あの一言。





胸が、

少しだけ揺れる。





(……元気かな)





自然と、

そう思う。





(会いたい?)





問いかける。





少しだけ考えて。





(……うん)





正直な答え。





でも。





(戻りたい?)





もう一度、

考える。





少しだけ、

時間がかかる。





そして。





(戻らない)





はっきりと、

思えた。





グラスを手に取る。





一口飲む。





少し苦い。





でも。





(この味、嫌いじゃない)







夜。





部屋に戻る。





静か。





でも。





(落ち着く)





前みたいな、

空っぽな感じはない。





テレビをつける。





ソファに座る。





ぼんやりと、

画面を見る。





(ちゃんと、生きてる)





それだけで、

少しだけ満たされる。





スマホを見る。





何も来ていない。





(当たり前)





少し前なら、

それが寂しかった。





でも。





(今は大丈夫)





完全じゃない。





まだ、

どこかに残ってる。





あの時間も。





あの人も。





でも。





(それでいい)





無理に消さなくていい。





抱えたままでも、

進める。





そう思えた。





「……明日も仕事か」





小さく呟く。





その言葉が、

ちゃんと前を向いている証拠だった。
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