恋が終わっても、人生は続いていく

第7話:初めての休日

「……どこか、行くか」

付き合ってから、初めての休日。

電話越しに、蓮はそう言った。

「え……?」

思わず聞き返す。

「休みだろ」

「はい、そうですけど……」

「なら、出かける」

それだけ。

相変わらず、シンプルすぎる誘い方。

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(デート……?)

その言葉が、頭の中でゆっくり形になる。

一気に、心臓がうるさくなる。

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「……行きたいです」

少しだけ間を置いて、答える。

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「じゃあ、十時に駅」

「はい」

それだけで、通話は終わった。

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しばらく、スマホを見つめたまま動けない。

(どうしよう……)

嬉しい。

でも。

同じくらい、緊張する。

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クローゼットの前で立ち尽くす。

服を選びながら、何度もため息をついた。

(これ、変じゃないかな……)

何度も着替えて、また戻して。

結局、シンプルなワンピースに落ち着く。

(……大丈夫かな)

鏡の前で、少しだけ自分を見つめる。

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待ち合わせの駅。

約束の時間より、少し早く着いてしまった。

(早すぎたかな……)

落ち着かなくて、周りを見渡す。

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「早いな」

後ろから、声。

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振り返ると、蓮が立っていた。

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「……課長」

思わずそう呼んでしまう。

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「その呼び方、やめろ」

少しだけ眉を寄せる。

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「あ……すみません」

慌てて言い直そうとして、

「れ、蓮……さん」

ぎこちない。

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「……それでいい」

短く言われる。

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その一言だけで、

距離が、少しだけ変わった気がした。

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「行くぞ」

「はい」

並んで歩き出す。

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どこに行くのか、聞いていない。

でも、不思議と不安はなかった。

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連れて行かれたのは、小さなカフェだった。

落ち着いた雰囲気の店内。

人も多すぎず、静かで居心地がいい。

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「ここ、よく来るんですか?」

席に座りながら聞く。

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「たまに」

それだけ。

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でも。

(ここに連れてきてくれたんだ)

そう思うと、少し嬉しい。

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注文をして、料理を待つ間。

少しだけ、沈黙が続く。

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(何か話さなきゃ……)

そう思うのに、うまく言葉が出てこない。

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「……緊張してるのか」

不意に言われる。

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「え……?」

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「顔、固い」

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「そ、そんなことないです」

慌てて否定する。

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「そうか」

それ以上は、何も言わない。

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でも。

その空気が、少しだけ和らいだ。

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料理が運ばれてくる。

一口食べて、思わず声が漏れる。

「……美味しい」

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「だろ」

少しだけ、得意そうな声。

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「なんでわかったんですか」

「好きそうだった」

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「え……?」

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「こういうの」

軽く皿を指す。

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(見てたんだ……)

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その事実に、

胸が、じんわりと温かくなる。

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食事のあと、少しだけ街を歩く。

雑貨屋に入ったり、何気ないものを見たり。

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「これ、可愛いですね」

手に取った小物を見せる。

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「……似合うな」

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「え……?」

思わず固まる。

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「……いや、なんでもない」

視線を逸らす。

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その横顔が、少しだけ照れているように見えて。

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(今の……)

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顔が、熱くなる。

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(反則……)

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夕方。

空が少しだけオレンジに染まる。

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「そろそろ帰るか」

「はい」

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並んで歩く帰り道。

朝よりも、少しだけ距離が近い。

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ふと。

指先が、触れた。

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びくっとして、手を引こうとする。

でも。

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ぎゅっと、

握られた。

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「……嫌か」

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低い声。

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「……いえ」

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それ以上、何も言えない。

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そのまま、手を繋いで歩く。

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温かい。

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(……安心する)

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自然と、力が抜ける。

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マンションの前に着く。

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「今日は、ありがとうございました」

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「別に」

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でも。

少しだけ、間を置いて。

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「また、行くか」

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その一言に。

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「……はい」

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迷わず、答えていた。

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部屋に入って、ドアを閉める。

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背中を預けて、

ゆっくりと息を吐く。

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(……楽しかった)

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こんな気持ち、

久しぶりだった。

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怖いはずなのに。

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それ以上に、

嬉しくて。

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温かくて。

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(ダメなのに……)

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そう思いながらも。

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止められない。

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この気持ちだけは。
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