死神の鳥籠〜激重感情に囲われまして〜
「痛い思いしたくなかったら、私を離して、深月」
目の前にある深月の首元に、ナイフをそっと押し当てる。
どちらかがほんの少しでも動けば、簡単に傷ができる位置に。
「結からの傷ならどんなものでも嬉しいな」
…が、深月は怯むことなく、愛おしそうにそのまぶたをやっと開け、私を見つめた。
血のように赤い瞳がまっすぐと私を射抜いている。
夜から何を言ってるんだ。
「寝ぼけたこと言わないの。目が覚めたなら起きる」
「はいはい」
呆れたように深月に目をやれば、深月は戯けたように笑いながら私を解放し、やっと体を起こしてくれた。
それからいつものように身支度を始めた。
もちろん、私は深月の女中として、それを手伝った。
そう、私は神園の女中といっても、ただの女中ではない。
深月専用のたった1人しかいない、特殊な女中なのだ。
*****
身支度を終えた深月と、それを手伝った私は、カタカタと小さく揺れる馬車内で、向き合うように座っていた。
何となくぼんやりと、窓の向こうを見つめる。
世界のトップに君臨するここ東大帝国は、どの国よりも早く、人と妖が共存を選び、繁栄を築いていた。
その為、東大帝国の中心、帝都では、妖も人も同じように往来している。
だが、今は夜も深まり、もうすっかり人よりも妖の方が多く道を歩いていた。
街を行き交う者たちは、皆、好んで和装をしている。
私たちのような洋装の者はあまりいない。
私ももちろん普段着は着物だ。
しかし、これから学院に行く為、学院の制服である赤のリボンが印象的な紺のセーラーを着ていた。