黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
私には理解できない。

「よくわからない対面とプライドのためさ。
信じられないとは思うが、こういう会社はよくある」

自分の勤めていた会社が常識の通じないところだったのだとようやく悟った。
いや、会社にいた頃からなんとなくそんな気がしていたが、気づかないフリをしていたのは私だ。
きっとそのツケが回ってきたのだ。

「夏初は悪くない。
悪くないよ」

私の考えに気づいたのか、彼が慰めるように抱きしめてくる。

「でも」

「会社から思考を奪われていたんだ。
だから、夏初は悪くない」

晴貴さんはそう言ってくれるが、思考を停止させなにも考えなかった自分が悪い自覚がある。
会社を相手に戦った人だっているのに、私はなにもしなかった。

そんな私の心に、晴貴さんの言葉が麻薬のように染みていく。

私が悪かったんじゃない、会社が悪かったんだ。

違うのはわかっている、それでも弱っている私は彼の言葉を信じたかった。

「携帯は僕が預かっておく。
仕事を整理してくるから、明日か明後日には新しい携帯を買いに行こう」

私が落ち着いたのを見計らい、彼は身体を離して顔をのぞきふふっと微笑んだ。

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