黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
遠くで、晴貴さんの声が聞こえた気がした。



額に冷たいものが触れ、重いまぶたを持ち上げた。

「気がついたか」

眼鏡の向こうできつく眉を寄せ、晴貴さんが私の額から手を離す。

「……はい」

起き上がろうとする私に手を貸し、彼は置いてあったグラスから水を飲ませてまた寝かせた。

「ごめん。
やっぱりひとりにするべきじゃなかった」

私の手を両手で握り、額に当てた彼は深く後悔しているようだった。

「あの、私……」

「過換気……過呼吸を起こして、倒れてた」

息ができなくて苦しかった記憶はある。
あれは過呼吸だったのか。

「嫌な予感がして、外回りに出たついでに様子を見に戻ったんだ。
電話したけど、ずっと黙ってて様子がおかしいし」

晴貴さんから電話がかかってきた覚えがない。
それくらい、私の感覚は上司の怒鳴り声に晒されて麻痺していた。

「会社」

「ひゅっ」

その単語を聞いただけで喉が変な音を立てて息を吸う。
目の前が真っ白になり、晴貴さんの姿が見えなくなった。

「大丈夫、落ち着け。
ゆっくり息をして。
大丈夫、僕がここにいる。
だから安心していい」

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