黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
情けない笑顔に心臓がずきゅん!と撃ち抜かれた。

「え、なんでですか」

どきどきと鼓動がうるさいし、顔も熱くて視線を逸らす。

「んー、なんでだろうね」

自分のことなのに彼は困っているようで、それ以上は聞けなかった。

「そうだ。
そろそろ私、自分のマンションに帰ろうと思うんですが」

食事も終盤を迎え、そろりと彼の反応をうかがいながら切り出す。

「なんでそんな必要があるんだ?」

僅かに彼の声が低くなり、どくんと心臓が跳ねた。

「あっ、いや、いつまでも晴貴さんのお世話になってるわけにはいかないっていうか……」

「はぁーっ」

とうとうため息をついて彼が箸を置き、びくりと肩が跳ねた。
反射的に私も箸を置き、背筋を伸ばす。

「夏初のマンションからだと電車だけで三十分。
しかも、とても混む路線だ」

「……はい」

毎日の通勤は地獄だ。
乗車率を超えてるんじゃないかというほど詰め込まれ、小柄な私は窒息しそうになる。

「しかも、痴漢の危険もある」

膝の上の拳に力が入った。
痴漢に遭ったことは……実は、ある。
だから本当は電車通勤をしたくないのだが、仕方ないから乗っている。

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