黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
「うちからなら地下鉄で十分、しかも朝は僕が一緒だから痴漢の危険もない。
この安全を捨てて、危険な通勤をするのか」

それにはもう、反論できなかった。
晴貴さんが心配してくれているのもわかるし、あの地獄に戻るのを考えると憂鬱になる。

「部屋だって余裕あるし、どうしてもあのマンションに戻らなきゃいけない理由があるなら教えてほしい」

レンズ越しにじっと彼から凝視され、なにか言おうとするが言葉は喉に引っかかって出てこない。

「……ない、です」

結局、出てきたのはそれだけだった。
どんなに考えようと晴貴さんを納得させる理由は思いつかなかった。

「うん」

満足げに頷き、前のめりになっていた姿勢を彼が解く。

「いっそもう、こっちに引っ越ししておいでよ。
家賃、もったいないし」

目尻を下げ、彼がにっこりと笑い気が抜ける。

「そうですね」

「正式に同棲するなら今度こそ、ご両親に挨拶へいかないとな」

そうか、こっちに引っ越して一緒に暮らすとなると、同棲になるのか。
気づいた途端、頬が熱くなった。

「でも晴貴さん、仕事、忙しくないですか」

「うっ。
そう、だな……」

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