黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
囁くように言って背中を撫でられ、自分が過呼吸の発作を起こしかけているのに気づいた。
震える指で、晴貴さんのスーツを掴む。

「くそっ!」

そんな私たちを見ながらも、悪態をついた憲吾先生の足音が遠ざかっていった。

「……落ち着いた、から」

最後に大きく息をつき、晴貴さんを見上げる。
彼は状態を確認するようにしばらく私を見つめたあと、その大きな手で私の顔を包んで親指で目尻を撫でた。

「うん、大丈夫だ」

目尻を下げて彼が眼鏡の向こうでにこっと笑い、ようやく安心できた。

お店に戻ったら皆に心配された。
私と憲吾先生が揉めていると晴貴さんが出ていき、皆の知るところになったようだ。

「怖かったよね。
ごめんね」

「ここ、座って」

「はい、紅茶。
落ち着くから」

差し出されたカップを受け取ってひとくち飲んだ紅茶は、みんなの優しさで温かかった。

「憲吾先生、は」

尋ねながら手が、無意識に晴貴さんの腕を掴む。

「帰ったよ。
というか、戻ってきても入れない」

代表して答えた斉藤さんの言葉に全員がうんうんと頷く。

「憲吾先生が夏初に迫ってるって教えてくれたんだ」

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