黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
たぶん、栗下先生が所長からお叱りを受けたのは、晴貴さんが言ったからだ。
きっとあれほど何度も謝ってきたのも、かなりきつく注意を受けたからに違いない。

「私は気にしてないのに」

手を洗いながら、ぽつりと私の口から漏れていく。
憲吾先生の件は所長が一度、痛い目を見たほうがいいと言っていたのもあって納得したが、これはやりすぎだ。

「いくら私のためでも、ちょっとな」

鏡に映る私は、眉間にきつく皺が寄っていた。



数日後、事務所内はピリピリしていた。

「オレが暴行ってどういうことだよ!」

ドアが閉まっていても憲吾先生の怒号が響いてくる。
晴貴さんが送った内容証明が届いたらしい。

「荒れてるね」

「だね」

みんなひそひそと話しながら晴貴さんの部屋のほうをうかがっていた。

「はいはーい!
憲吾先生は陽川先生に任せておいて私たちは仕事に集中!」

斉藤さんがぱんぱんと手を叩き、私たちの興味を逸らせる。
気にしていても業務が滞るだけなので、気にはなるが目の前の仕事に集中した。

とはいえ、いつ憲吾先生が私のところに怒鳴り込んでくるのだろうと落ち着かない。
……おかげで。

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