黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
決意を新たにし、顔を上げたところで眼鏡の男性が見えた。
彼も先ほどまでの私と同じように、つまらなそうに窓の外を眺めている。
上品な空気がほのかに漂い、彼の周りだけざわめく室内とは別の世界のように感じた。

その姿に目が無意識に吸い寄せられる。
視線に気づいたのか彼が、こちらを向いた。
熱を持つ顔で慌てて逸らしたが、彼がこちらへ足を踏み出した気配がする。

……どうしよう。

どきどきと心臓の鼓動がうるさい。

それが、私の運命を変えた瞬間だった――。



そもそもの発端は、半日ほど遡る。

「おーい、紙が切れてるぞー」

「あっ、はい!」

年配男性社員が誰にともなく声をかけたので、慌てて立ち上がる。
すぐにコピー機へ行き、紙を補充した。
私がコピー機を離れ、男性社員は何事もなかったかのように印刷を再開した。
私も机に戻り、仕事を続ける。

私の勤める会社は小さいとはいえ自社ビルを持っているが、親族経営だからか社長がワンマンだからか、そこはかとなく昭和臭がした。
なので今でも女性はお茶汲み要員だし、男性社員の小間使いだ。

大学卒業と同時に入社して二年。
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