黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
「えっ、あっ、その、えっと」

いきなり彼が結婚とか言い出し、慌ててしまう。

「まあ!
まあまあまあまあ」

誠実に晴貴さんから頭を下げられ、みるみる母の顔が輝いていく。

「陽川さんなら安心して夏初ちゃんを任せられるわ。
ねえ、お父さん?」

先ほどまであれほど晴貴さんを追求していた母の言葉とは思えず、自分の耳を疑った。

「ああ」

場を仕切り直すように小さく父が咳払いし、母も姿勢を正す。

「うちの娘をよろしくお願いします」

父と母が揃って晴貴さんに向かって頭を下げる。

「はい。
任せてください」

再び晴貴さんがお辞儀をし、外堀を埋められたと悟った。

「今日は楽しかったわ。
今度は福岡にも遊びに来てね」

あれほど晴貴さんを敵視していたとは思えないほど上機嫌な母と父はタクシーでホテルへ帰っていった。
母は明日、ひとりで気ままにこちらを観光するらしい。
それを見送り、私たちもタクシーに乗り込む。

「あそこで結婚の話をしなくても」

つい、口をついて不満が出てくる。
私に事前の説明はなく、完全に不意打ちだった。

< 232 / 287 >

この作品をシェア

pagetop