黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
少し悩んだ末、晴貴さんの手を甘噛みする。
ぴくっと彼が反応した気がしたが、もしかして痛かったんだろうか。

「わかりました、ありがとうございます」

「いえ」

実演が終わり、再び椅子に座る。
晴貴さんが駆けつけたときの状況などを説明するのを隣で聞きながら、いまさらながら自分がかなり危機的状況だったのではと思い至った。

絶対に負けたくないと必死になっていたから抵抗できたが、怯えて噛みつくどころか大声も出せなかったら?
誰にも気づかれない密室で憲吾先生に好きにされていたかもしれない。

それ以前にいつものように発作を起こしていたら?
憲吾先生なら介抱するどころかこれ幸いと私をいたぶっていた可能性がある。

今頃になって恐怖が身体を襲ってくる。
前歯が一本、逝ったくらいで済んだのは本当に運がよかったんだ。

「夏初」

唐突に晴貴さんの優しい声が聞こえ、のろのろと顔を上げる。

「大丈夫。
もう終わったんだ」

ゆっくりと背中を撫でられ、安堵したかのように長く息を吐き出す。
あのときを思い出し、発作を起こしかけていたのに気づいた。

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