黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
その瞬間、重い声が聞こえてきてびくりと身体が大きく震えた。

……ああ、やっぱり軽蔑されたんだ。

滲んできた涙は、煙のせいにする。
こんなことで泣いたりしたくない。

「元カレも、その同僚も」

「え?」

想像とは違う言葉が返ってきて、ついその顔を見ていた。
焼けた肉――ネギ塩タンが命名のお皿に取り分けられ、煙が晴れる。
陽川さんは不快そうに眉を顰め、厚切りカルビを網の上にのせた。

「夜桜さんは素敵な女性です。
誰だってお近づきになりたいと考えます。
なのに、彼氏ができるはずがない?
その方たちの目は節穴ですか」

怒りながら彼はタレにくぐらせたカルビを、豪快に頬張った。

「そんな男とは別れてしまいなさい。
ああ、別れたんでしたね」

もりもりと食べている彼を、あっけにとられて見つめる。

「おかげで僕は、心置きなく夜桜さんを口説けます」

ビールを一気に飲み干し、彼がプファっと息をつく。
最後にビールと脂で汚れた口をぐいっと拭い、彼は私のほうへと身を乗り出した。

「僕が、あなたの彼氏になりましょうか」

脂で汚れた陽川さんの眼鏡が、灯りを反射して光る。
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