黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
向こうも私に気づき、すぐにこちらにやってくる。

「今朝、別れたばかりなのにとは思ったんですが、どうしても会いたくて」

ぶつかりそうになった人から庇うようにさりげなく、彼は私を抱き寄せた。

「いえ。
私も……会いたかったですし」

頬がほのかに熱を帯び、視線を下に落とすとよく磨かれた革靴が目に入った。
職場のおじさんの、くたびれた靴とは全然違う。

「イタリアンなんですが、大丈夫ですか」

「はい」

促すように軽く背中を押され、並んで歩き出す。
連れてこられたのはごく普通の雑居ビルだったが、店内は照明が落とし気味で落ち着いた大人の店といった雰囲気がした。

「なに、飲みます?」

「あの。
ここ、お高いんじゃないんですか」

私へ向けてメニューを広げた彼に、つい気になって聞いていた。

「え?」

意外そうに一声発し、眼鏡の向こうで彼が何度か大きく瞬きをする。

「そんなこと、気にするとは思いませんでした」

次の瞬間、軽く握った手を口もとに当てて彼はくすくすと笑い出した。

「だって……。
昨日は経費?とやらだったので奢ってもらいましたが、毎回というわけにはいかないので」

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