黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
「……本当に訴えるんですか」

さっきの彼は本気のように見えた。
訴えられればきっと、鳥越くんは身の破滅だろう。

「そうですねー」

人ひとりの人生がかかっているというのに、陽川さんの声は酷く軽い。

「夏初さんは訴えてほしいですか」

「え?」

尋ねられるとは思わず、彼の顔を見ていた。
けれど暗くて表情はよくわからない。

「いくら僕が弁護士でも、依頼もないのに勝手に訴えられないですからね。
夏初さんはどうしてほしいですか」

彼の声は私に決断を促していた。
鳥越くんには付き合っているあいだも、別れたあとも嫌な思いをさせられた。
はっきり言ってやり返したい気持ちはある。
けれど。

「訴えるまでしなくていいです」

「本当に?」

うんと彼に、自分の意志を伝えようと力強く頷いた。
打ちひしがれている鳥越くんを見て、可哀想になった。
少しくらい、私の気持ちをわかってくれたと思いたい。

「夏初さんがいいならいいですが」

小さく息を落とした彼は、呆れているようでもあり嬉しそうでもあった。

タクシーは話してあった最寄り駅方面には向かっていたが、さらに詳しい場所を運転手に告げる。

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