黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
苛ついた様子で髪を掻きながら彼は話している。
内容からして相手は部下のようだ。

「ほんと、使えない人間ばかりでやになっちゃうよね」

通話を終えた彼が、先ほどまでとは打って変わって愉しそうに私に笑いかける。

「はぁ……」

そうですねとも答えられず、適当に口を濁しておいた。

さりげなく腰を抱かれた手を、無言で見下ろす。
しかし彼は気づかないのか近くのソファーへと連れていった。
さりげなく周囲に目を配るが、先ほどの彼はもういない。

「見ない顔だね。
初めて?」

「はぁ。
知人に連れてこられて……」

ちらりと遠くで数人の男と話している篠木さんに目を向ける。
視線があい、彼女は意味深にひらひらと手を振った。

「ああ。
ああいうのが友人だと大変だね」

男はさも、自分は理解があるように言うが、ここにいる時点で大差はないのではないかと思う。
それに彼女は同僚ではあるが友人ではない。

「自己紹介がまだだったね。
オレは鹿野谷(かのや)
弁護士をしている」

弁護士バッチを見せつけるように、彼が胸を張る。

「まあ、今はオヤジの事務所に所属してるけどね」

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