黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
にやりと彼は、イヤラシく頬を歪めた。
〝今は〟とことさら強調したのは近い将来、自分が所長になるとでも言いたいのだろう。
さらにわざとらしく腕を動かし、ちらりとのぞかせた腕時計はひと目で高級とわかるものだった。

「で」

にこにこ笑いながら彼が私の顔を見てくるが、なにを求められているのかわからない。
少しのあいだ考えてようやく、自己紹介をしろと言われているのだと気づいた。

「あー、夜桜、です。
ただの会社員、です」

適当な笑みを浮かべ、当たり障りのない自己紹介をする。

「下の名前は?」

自分だって名字しか名乗らなかったのに、人に下の名前まで聞いてくるなんて失礼じゃないかと思うが、言わなければしつこく聞かれそうで仕方なく口を開いた。

「……夏初(なつは)、です」

「へー、夏初ちゃん」

初対面の男に名前を、しかも〝ちゃん〟付けで呼ばれ、背筋がぞわりとした。

「夏初……夜桜なのに夏なの?」

おかしそうに彼が聞いてくるが、だいたい誰もがこの反応をするので気にしない。

「あー、なんででしょうね?」

笑って誤魔化し、その場を取り繕う。
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