黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
彼がなにを言っているのかわからなくて、ゆっくりと視線を上げる。
眼鏡の向こうに見える目は酷く真剣だった。
「夏初がどうしてもあの会社に残りたいというのなら、止めない。
けれど、僕はあの会社のよくない噂をいくつか聞いている。
この査問会?だって違法だ。
裁判で戦えば僕なら確実に、勝てる」
硬く握った私の手を、安心させるように彼が軽く叩く。
「横領の件も鳥越に吐かせた。
単独犯ではなく役員のひとりが共犯というところまでわかっているらしい。
それで夏初に罪をなすりつけたかったんじゃないか」
鳥越くんはそこまで知っていて私に話さなかったのか。
しかし役員が関わっているとなれば迂闊に話せば彼の進退にも関わってくるし、言えなかったのもわかる。
「だから、僕は夏初にあの会社を辞めてほしい」
言葉はお願いだが半ば命令されるのはいい気はしない。
……普通なら、ば。
けれどこれは心の底から晴貴さんが私を心配しての言葉だから、拒否はしにくい。
「……でも、辞めたら生活できなくなる、ので」
生活はどうにか回っていたが、貯蓄などほとんどない。