黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
身を乗り出した彼が両肘をついて指を組んだ手の上に顎をのせ、いたすらっぽい目で眼鏡の向こうから私を見つめる。

「その指環を」

彼の長い人差し指が、私の右手薬指に嵌まる指環を指した。

「こっちからこっちに移すだけ。
簡単」

今度は左手を指し、目尻を下げてにっこりと笑う。

「えっ、そのー」

いや、確かにそうなのだが、右から左に移すまでのあいだにはいろいろあり、そんなに簡単なはずはない。

「まだ付き合って一週間も経ってないですし」

「残念」

彼は姿勢を解いてあっさりと引いたが、あのちょいちょい結婚を持ち出してくるのはなんなのだろう?

「ああそうだ」

コーヒーも飲み終わり、席を立つのかと思ったら思い出したかのように晴貴さんは鞄からクリアファイルを取り出し紙を一枚、私の前に置いた。

「診断書を事務所に送ってもらう同意書。
サインをもらえるかな」

「えっと?」

どういうことかわからず、渡された書面に目を落とす。

「退職の手続きとこれから会社と戦うために必要となる」

退職の手続きはなんとなくわかるが、会社と戦うとはどういう意味なのだろう?

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