黒魔術の使い手ですが何か?! 死に戻り王太子妃は今世ではもふもふ精霊と一緒に楽しく暮らしたい
「長引く咳が続いておりまして、何が原因かはわからないのですが……」

咳が?
何だろう?

「わたしたちは奥様をいじめようとしているわけではないの。少しお話をしたいだけなのよ。ご病気なんだったら長居はしないから安心して」

シーヴァはにらみつけるようにオーロラを見ていたが、優しく言わなければ会わせてもらえるわけはないだろう。

「かしこまりました」

オーロラの言葉に使用人は頷き、しずしずと奥へと進んでいった。

奥には陰気な空気が漂っている。
シーヴァは気味悪くなってきたのか及び腰になってしまっているのでオーロラはシーヴァの腕をとった。

「お兄様。きちんと確認してくださいね」

「え?」

「お父様のご命令ですよ。この目できちんと見ましょう」

「あ、ああ」

最奥にある部屋の扉の前で使用人が止まるとゆっくりと扉を開けた。

「どうぞ。お願いします」

ゆっくりと中に入る。

と、まるで死の淵にいるかの如く土気色の顔をした中年の女性がベッドに横たわっていた。
かつては美しかったと思われる容姿は面影もない。
かろうじてよかったのはこの部屋だけは清潔に保たれていたことだ。
この年配の使用人はここだけはと必死で綺麗にしているのだろう。

「……」

死の淵にいる人間を見たのは初めての兄シーヴァは絶句しているようだ。

「奥様。聞こえますか?」

オーロラは優しく声をかけた。

「奥様」

何度か声をかけるとようやく女性が目をうっすらと開けた。

「だれ?エンジェル?」

かすれた声でそう言ったあと女性はおそろしく咳き込む。
これは……。

「無理に声は出さなくてもいいですからね」

オーロラはそういうと彼女の手を握った。
病の原因を大急ぎで探る。

「あ、あなたは?」

知らない人間がふたりも来たので驚いたようで女性はまた声をあげ、また咳き込んだ。
一度咳き込むと数分止まらないらしい。

オーロラは背を起こし背中をさすりながら必死で病を探った。

これは胞子肺だ。
健康な身体であればうつっても発症しないが、体が弱っていると発症する。
ふと後ろに使用人がいることに気づいた。
もしこの使用人が魔力持ちであればオーロラの黒い魔力の流れに気づくはずだ。
だが、四の五の言っていられない。この使用人が魔力持ちでないことを祈りながら、オーロラは背中をさすりつつ、少しずつ胞子肺菌を殺していく。
これだけ弱っていれば間に合うかわからない。だけど殺す価値はある。

五分くらいそうしていただろうか。ようやく胞子肺菌をすべて殺し終え、女性をベッドに静かに下ろした。

これで咳は落ち着くだろう。

「あなた」

後ろに控えていた使用人を呼ぶ。使用人がふたりに増えていた。用事を終え帰って来たのだろう。

「「はい」」

「奥様をホスピタルに入れる必要があるわ」

「ホスピタルですか?」

ホスピタルというのは病気の回復のための施設だ。
身体が弱っている人をそこに入れて回復させる。
前世でよく使った施設がキノックスに行けばあるはずだ。

「ええ。わたしが知っているところがあるの。手配するからすぐに行って頂戴。そうしなければ命は助からないわ」

「は、はい。わかりました」

女性はぐったりとベッドに寝たままになっている。
菌はすべて殺したが胞子肺菌はそこら中にいる。
また肺についてしまうと同じことの繰り返しだ。

「奥様が目をさましたらすぐに栄養のあるスープを用意するのよ。毎日少しずつ量を増やしていって。そして迎えがきたらすぐにホスピタルへ行くようにして頂戴」

「わかりました」

心なしか顔色がよくなっている気がした。
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