【改稿版】記憶を失くした御曹司と偽りの妻
家族がICUへ向かっていって、廊下に私と怜央だけが残った。
たぶん私は、かなり情けない顔をしていたと思う。
緊張が切れたせいで、膝の力がどこかへ行っていた。

「……終わったんですね」

「終わった」

怜央はそこで、ようやく少しだけ息を吐いた。

「待ってたのか」

「待ってるって言ったでしょう」

「そうだったな」

ほんの少しだけ、口元が緩む。
オペ室の前ではあんなに近寄りがたかったのに、その顔を私に向けるときだけ、空気が変わる。

「待っていてくれて助かった」

「え?」

「出たあと、君の顔を見たかった」

ああもう、本当にずるい。
この人に、どうやって勝てばいいんだろう。
< 52 / 113 >

この作品をシェア

pagetop