秘書の誕生日、一夜のはずが社長に溺愛されています
「大丈夫ですか?顔色、悪いですよ」

「少し、立ちくらみが……」

とっさにごまかして、その場を離れる。

足早に廊下を歩きながら、胸の奥がじくじくと痛む。

(政略結婚……)

さっきまで、どこか現実味のない話だったのに。

こうして言葉にされると、一気に重みを持って迫ってくる。

(当たり前、だよね)

社長は、私なんかとは違う世界の人だ。

仕事で隣に立つことはできても、その先に踏み込む資格なんて、最初からない。

それなのに。

(少しでも……期待してたの?)

胸がぎゅっと締め付けられる。

あの優しさ。距離の近さ。自分だけに向けられているように感じた視線。

全部――

「勘違い、だったんだ」

小さく呟いた声は、自分でも驚くほど弱かった。その時。
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