秘書の誕生日、一夜のはずが社長に溺愛されています
――その言葉が、空気を切り裂いた。

一瞬、意味が理解できなかった。

(婚約……)

さっき耳にした噂が、頭の中で現実に変わる。

「……そう、ですか」

なんとか声を絞り出す。

喉が、うまく動かない。

「先方から打診があった」

淡々とした説明。

まるで、ただの業務報告のように。

「正式に決まれば、社内にも通達する」

「はい……」

それしか言えなかった。本当は、何か言いたいのに。

胸の奥で、言葉が崩れていく。

「秘書として、対応が必要になる」

「承知しております」

機械のように答える。

「スケジュールの調整や、外部対応も増えるだろう」

「問題ありません」

自分の声が、遠く感じる。

この人は、やっぱり遠い存在で。

私はただの秘書で。それ以上には、なれない。

(分かってたのに)

胸の奥が、じんわりと痛む。

でも、涙は出なかった。

ただ――どうしようもない空白だけが、残っていた。
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