秘書の誕生日、一夜のはずが社長に溺愛されています
期待させるようなことを、どうして。

「泣くほどか」

「……分かりません」

自分でも、分からない。嬉しいのに、苦しくて。

「……社長」

名前を呼びかけて、止まる。

これ以上、近づいたら――戻れなくなる。

(でも……)

掴まれた手の温もりが、離れない。

(諦めるなんて、できない)

そう思ってしまう自分が、確かにそこにいた。

掴まれた手の温もりが、離れない。

「……社長」

かすれる声で名前を呼ぶ。

社長の視線が、まっすぐに落ちてくる。

「どうした」

その問いに、胸の奥に押し込めていた想いが、ほどけていく。

「こんな事されたら……」

言葉が震える。

「社長のこと、諦められません」

静寂が落ちた。空気が、ぴんと張り詰める。

「諦めるなんて、そんな……」

社長が低く呟く。
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