秘書の誕生日、一夜のはずが社長に溺愛されています
「車は?」

「すでに手配してあります」

「そうか」

それだけ言って、社長は立ち上がる。

そのまま、当然のように私の横を通り過ぎる。

「行くぞ」

「はい」

慌てて資料をまとめ、後を追う。

エレベーターの中。密室の空間に、二人きり。

以前なら、ただの業務だったはずなのに――

(どうしてこんなに……)

意識してしまう。隣に立つだけで、距離が近く感じる。

「何か言いたそうだな」

不意に、低い声が落ちてくる。

「……え?」

「顔に出ている」

ちらりと視線を向けられる。逃げ場がない。

「いえ……その……」

言葉を探して、結局見つからない。

「秘書として、必要な範囲で動きますので」

無難な答え。それしか言えない。

「必要な範囲、か」

社長が小さく繰り返す。

「それは誰が決める」
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